欧州サーキュラーエコノミー戦略通信2026年6月号|制度づくりから「市場を動かす設計」へ

西崎こずえ | Horizon Green

2026年6月の欧州サーキュラーエコノミー政策を振り返ると、今月のキーワードは「制度をつくる段階から、制度を機能させる段階へ」です。
5月号では、EUのデジタル廃棄物輸送システム(DIWASS)の運用開始や、循環経済移行に向けた投資ギャップ、重要鉱物を巡る経済安全保障など、「サーキュラーエコノミーが産業政策へ移行している」流れをご紹介しました。
6月は、その方向性がさらに一歩進みました。
新たな規制を次々と打ち出すのではなく、既存制度をどう統合し、市場として機能させるか。EUは、サーキュラーエコノミーを単なる環境政策ではなく、単一市場、産業競争力、そして戦略的自律性を支える経済基盤として設計し始めています。

Circular Economy Actは「新法」ではなく、制度全体を束ねる設計図へ

6月18日、欧州経済社会評議会(EESC)は、今後欧州委員会が提案を予定している「Circular Economy Act」に対する意見書を採択しました。
今回注目すべきなのは、Circular Economy Actを単独の新法としてではなく、EU域内に散在する循環経済関連法を束ねる「Framework Legislation(包括的枠組み法)」として位置付けるよう提言した点です。
EUでは現在、廃棄物、EPR(拡大生産者責任)、エコデザイン、二次資源、リサイクル、修理など、多くの制度が個別に存在しています。しかし加盟国ごとの制度運用や定義の違いにより、企業は国境を越えるたびに異なるルールへの対応を求められ、二次資源市場も十分に機能しているとは言えません。
EESCは、この状況を改善するため、Circular Economy Actに以下のような要素を盛り込むべきだと提言しています。
・加盟国間で異なる循環経済関連制度の調和
・二次原材料市場(Secondary Raw Materials Market)の活性化
・公共調達を通じた循環型製品への需要創出
・EPR制度の改善と加盟国間の整合
・デジタル製品パスポートを含む材料トレーサビリティの強化
・エコデザイン要件のさらなる推進
・循環経済を推進する「Transition Brokers(移行支援組織)」への支援
特に興味深かったのは、「Transition Brokers」という考え方です。これは今年4月にブリュッセルの欧州委員会で開催されたECESP(European Circular Economy Stakeholder Platform/欧州循環経済ステークホルダー・プラットフォーム)年次会議のなかでも話に上りました。
これは、行政、企業、金融機関、研究機関、市民社会をつなぎ、地域や産業全体の循環型移行を支援する中間組織を制度的に位置付けるというものです。
サーキュラーエコノミーは、一社だけでは実現できません。資源回収、製品設計、リサイクル、金融、自治体など、多様な主体をつなぐ役割が不可欠です。EESCは、その役割自体をEUの政策の中に組み込む必要性を示しました。
日本でも近年、地域循環共生圏や産学官連携が進んでいますが、「移行を支援する中間組織」を政策として位置付ける考え方はまだ一般的ではありません。この点は、日本にとっても参考になる視点と言えるでしょう。

重要鉱物は「資源」ではなく「安全保障」の議論へ

6月16〜17日にフランス・エビアンで開催されたG7首脳会合では、「重要鉱物サプライチェーンの確保に関する首脳宣言」が採択されました。
近年、重要鉱物を巡る議論は「どこから調達するか」が中心でした。しかし今回の宣言では、採掘だけでなく、加工、リサイクル、永久磁石の製造能力まで含めたサプライチェーン全体の強靱化が打ち出されています。
さらにG7は、永久磁石やレアアースについて、2030年までにG7・パートナー国以外への依存度を60%未満に抑えるという目標も掲げました。
これは、循環経済が「廃棄物を減らすため」の政策ではなく、「経済安全保障を支える供給戦略」として位置付けられ始めていることを示しています。
欧州では近年、「最も安全な重要鉱物は、新しい鉱山ではなく、すでに経済の中に存在する資源である」という考え方が広がっています。
使用済み製品や都市インフラに蓄積された資源を回収・再利用することは、環境負荷を減らすだけでなく、地政学リスクへの対応でもあります。
日本は資源輸入国であり、重要鉱物の多くを海外に依存しています。その意味で、この動きは欧州だけの話ではありません。今後、日本でも資源循環は環境政策ではなく、産業政策・経済安全保障政策として議論される場面が増えていくでしょう。

製品政策は「情報が循環する時代」へ

6月には、欧州議会とEU理事会が製品コンプライアンス規則のデジタル化について暫定合意に達しました。
これにより、EU適合宣言(Declaration of Conformity)や取扱説明書など、多くの製品情報を電子化できるようになります。
これは単なる行政手続きのデジタル化ではありません。
サーキュラーエコノミーでは、製品そのものだけでなく、「製品情報」が循環することが重要になります。
どの素材が使われているのか。修理できるのか。交換部品はあるのか。リサイクル方法は何か。こうした情報がデジタルで管理されることで、修理、再利用、再資源化、デジタル製品パスポートとの連携が現実のものとなります。
EUは今、モノの循環だけではなく、「情報の循環」を制度として整備し始めています。

PPWRはいよいよ実装フェーズへ。企業が今、注目すべきこと

包装・包装廃棄物規則(PPWR)も、6月に重要な節目を迎えました。
欧州委員会は6月10日、PPWR(Regulation (EU) 2025/40)に関するガイダンス文書を公表しました。
一見すると単なる解説資料ですが、実際には「企業が今後どのように制度へ対応していくべきか」を示す重要なメッセージが含まれています。
ガイダンスでは、包装の定義、生産者・輸入者などの経済事業者(Economic Operator)の考え方、リサイクル可能性、再生材利用、包装の最小化、再利用、ラベル表示などについて現時点での解釈が整理されました。
一方で欧州委員会は、リサイクル可能性の評価方法や再生材含有率の算定方法など、多くの重要事項については今後、実施規則(Implementing Acts)や委任規則(Delegated Acts)で具体化するとしています。
つまりPPWRは「完成した制度」ではありません。
企業に求められるのは、最終ルールを待つことではなく、制度の方向性を理解し、包装設計や調達、サプライチェーン管理を今から見直していくことです。
欧州では、包装そのものではなく「包装システム全体」を変える段階へ入ったと言えるでしょう。

自動車も「資源」として設計される時代へ

6月29日、EU理事会は使用済み自動車(ELV)規則案について、加盟国としての交渉方針(General Approach)を採択しました。
これは法律が成立したことを意味するものではありませんが、今後、欧州議会との三者協議(トリローグ)へ進むための重要な節目です。
今回の交渉方針では、自動車を「製品」としてではなく、「将来の資源」として設計する考え方が一段と強化されています。
例えば、
・新車に使用するプラスチックの一定割合を再生材とすること
・解体・修理・再利用しやすい設計を促進すること
・使用済み自動車の違法輸出を防止すること
・生産者責任(EPR)の対象をライフサイクル全体へ広げること
などが盛り込まれています。
近年、自動車は「走行時のCO₂排出量」だけでなく、「製造から廃車まで」の資源循環が問われるようになっています。
欧州では、自動車産業も循環経済の中心産業として位置付けられ始めています。

実務インサイト:繊維EPRは「制度」から「設計」の議論へ

今月、日本企業にとって特に参考になると感じたのが、英国の環境実務機関WRAPが公表したレポート「What can global EPR schemes teach the textiles sector?」です。
EUでは、繊維EPR(拡大生産者責任)の導入が加盟国で進められています。
しかしWRAPは、「EPRを導入すれば循環経済が実現するわけではない」と指摘します。重要なのは制度の”設計”です。
報告書では、世界各国の制度を比較しながら、
・回収量ではなくリユースを優先すること
・環境配慮設計を促すエコモジュレーション
・生産者責任組織(PRO)の明確な役割分担
・回収・選別・リサイクルへの継続的投資
・制度全体を支えるデータ基盤
などが、制度の成否を左右する重要な要素として整理されています。これは日本にとっても大きな示唆があります。日本でも衣類回収やリユースは広がっていますが、繊維廃棄物を誰が負担し、どのようなインフラで循環させるのかという制度設計は、まだ発展途上です。
欧州では、EPRは「廃棄物処理費用を企業が負担する制度」から、「より循環しやすい製品を生み出すための経済的インセンティブ」へと役割が変わりつつあります。
今後、日本でも同様の議論が進む可能性があります。

今月をどう読むか

今月最も印象的だったのは、EUが「新しい規制を増やすこと」ではなく、「既存制度をどう機能させるか」に軸足を移し始めたことです。
Circular Economy ActもPPWRもELVも、その共通点は、市場を動かすための制度設計にあります。
日本でも今後、個別リサイクル制度を積み重ねるだけでなく、資源循環を産業競争力につなげる制度設計がより重要になっていくでしょう。

6月の総括

2026年6月に見えてきたのは、EUがサーキュラーエコノミーを「環境政策」ではなく、「市場をどう設計し、どう機能させるか」という産業政策として捉え始めていることです。
Circular Economy Act、PPWR、使用済み自動車規則(ELV)、製品コンプライアンスのデジタル化、一見すると異なる政策ですが、その目的は共通しています。資源を循環させるだけでなく、二次資源市場を育て、企業が循環型ビジネスへ投資しやすい環境を整えることです。
こうした動きは、日本にとっても示唆に富んでいます。日本でも近年、サーキュラーエコノミー政策は大きく前進しており、資源循環や経済安全保障を一体で捉える議論も広がりつつあります。そのなかでEUの特徴は、個別制度の整備に加え、それらを横断して市場全体を循環型へ転換する制度設計を進めている点にあります。
つまり、企業に求められるのは制度への対応だけではありません。新たな市場環境のなかで、どのような事業機会が生まれるのかを見極める視点も、これまで以上に重要になっていくでしょう。

毎月、EU政策・規制動向から国際機関の分析、産業界の最新トレンドまで、サーキュラーエコノミーを取り巻く重要な動きを整理し、「実務にとって何が重要なのか」という視点でお届けします。

参考文献(2026年6月号)

  1. European Economic and Social Committee. (2026, 18 June). The Circular Economy Act: A Test Case for Whether the Single Market Delivers.
    https://www.eesc.europa.eu/en/news-media/news/circular-economy-act-test-case-single-market-delivers

  2. European Commission. (2026). Circular Economy Act.
    https://environment.ec.europa.eu/strategy/circular-economy_en#circular-economy-act

  3. European Circular Economy Stakeholder Platform (ECESP). (2026). Annual Conference 2026.
    https://ideasforgood.jp/2026/06/04/eu-circular-economy-security-ecesp-2026/

  4. Ministry of Foreign Affairs of Japan. (2026). G7 Leaders’ Declaration on Critical Minerals Supply Chains(日本語仮訳).
    https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/101046857.pdf

  5. European Commission. (2025). Regulation (EU) 2025/40 on Packaging and Packaging Waste (PPWR).
    https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2025/40/oj/eng

  6. European Commission. (2026). Guidance document for Regulation (EU) 2025/40 on Packaging and Packaging Waste.
    https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=OJ:C_202603084

  7. European Parliament. (2026, 11 June). New rules for a more sustainable EU automotive sector.
    https://www.europarl.europa.eu/news/en/press-room/20260611IPR45210/new-rules-for-a-more-sustainable-eu-automotive-sector

  8. WRAP. (2026). What can global EPR schemes teach the textiles sector?
    https://www.wrap.ngo/resources/report/what-can-global-epr-schemes-teach-textiles-sector

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